3D Shot Feedback
バスケットボール初心者のシュート技能向上を支援する三次元フィードバックシステムの提案
シュート後のボール軌道を三次元的に可視化し、初心者が結果を空間的に振り返れる MR フィードバックシステムを提案・評価しました。ステレオカメラと Meta Quest 3 という安価な構成で、「自分のシュートがどう飛んだか」をその場で立体的に確かめられる体験をつくりました。
00 Movie 約 20 秒でわかる研究概要
撮影のセットアップから、MR 上での三次元軌道の表示までをまとめた動画です。
01 Background なぜ「ボールの軌道」を見せるのか
運動学習におけるフィードバック不足
バスケットボール初心者は、頭の中の運動イメージと実際の動作との間に大きな乖離があります。運動学習ではフィードバックが不足すると、誤った動作がそのまま固定化してしまう傾向があります。
ビデオ映像による学習の限界
近年はスポーツ教育で映像を使った指導が一般的になりました。しかし従来の 2D 映像では、ボールがどれくらい高く・どの方向に飛んだかといった三次元的な動きを直感的に理解するのに限界があります。
バスケットボール初心者が、自身のシュート軌道を3次元的に把握できる環境を構築し、効率的なスキル習得を支援する。
02 Experience ボール軌道を理解できる体験設計
身体フォームではなく「ボールの軌道」という結果情報に注意を向けさせる設計にしました。Gabriele Wulf が提唱した外部フォーカス理論(身体が影響を与える対象に意識を向けるほうが運動学習に有利)に基づいています。
- 01 結果へのフォーカス 身体フォームではなく、ボール軌道という結果情報に注意を向けます。
- 02 現実空間での振り返り シュートした場所で、そのまま立体的に結果を確認できます。
- 03 理想軌道との比較 実軌道(ピンク)と理想軌道(黄色)を重ねて、次の修正方針を掴みます。
03 System ボール検出から MR 表示までのパイプライン
ボールの位置検出から MR 上での三次元軌跡表示までを、一連のパイプラインとして実装しました。ステレオ撮影した左右の画像から YOLO でボール中心をフレームごとに推定し、三角測量で三次元軌跡を復元。復元した軌跡を Unity へ送信し、Meta Quest 3 で現実空間と整合した位置に表示します。
- STEP 01

ステレオ撮影
Web カメラ ×2 で左右から同時撮影
- STEP 02

ボール検出
YOLO でフレームごとにボール中心を推定
- STEP 03
3D 復元
三角測量で三次元座標に変換
- STEP 04

MR 表示
Unity → Meta Quest 3 で現実空間に重ねて表示
左右のカメラで同時に撮影し、YOLO が検出したボール位置(ピンク)から視差を求めて三次元座標を復元します。
04 Evaluation 初心者 11 名による比較実験
- 対象
- バスケットボール初心者の大学生 11 名
- 条件
- MR フィードバック群 6 名 / 動画フィードバック群 5 名
- タスク
- フリースロー距離からのセットシュート
- 手順
- Pre-test 10 本 → フィードバック → Post-test 10 本 MR 群は Meta Quest 3、動画群は PC 画面の動画でフィードバック
- 指標
- RMSE(理想軌道からのずれ)/ リリース角度 / 左右偏り / 最高到達点 / リリース高さ / 成功率 / アンケート


05 Results 実験結果
群間比較では、主要な定量指標に有意差は確認されませんでした。一方、MR 群内(フィードバック前後)では左右方向の偏りに有意な変化が見られました。短期介入の実験だったため、成績の改善が限定的になった可能性があります。



左:理想軌道(黄)と実軌道の比較(側面図・上面図) 右:RMSE と左右偏りの群間比較(青=動画群、橙=MR 群)

実験後の 7 段階アンケートでは、以下の項目で MR 群が有意に高い評価を得ました(p < 0.05)。三次元の MR フィードバックは、結果の理解と振り返り体験の向上に寄与したと考えています。
- 「シュート結果を把握しやすかった」
- 「ボール軌道を直感的に理解できた」
- 「奥行きや距離感を掴みやすかった」
- 「シュート力向上に役立つと思う」
※ 青=動画フィードバック群、橙=MR フィードバック群。評価は 1〜7 の 7 段階。
06 Conclusion わかったこと・これから
安価な MR フィードバックシステムの構築
シュート結果としてのボール軌道を三次元的に可視化する MR システムを構築しました。Web カメラ 2 台と Meta Quest 3 という安価な構成で、撮影から MR 表示までの一連の体験を実装しています。
軌道理解に対する有効性
客観指標の短期的な改善は限定的でしたが、軌道の理解・奥行きの把握・学習有用感は向上しました。結果情報に着目した体験設計が、初心者の振り返りを支える可能性が示されました。
今後の展望
今回はシュート後にフィードバックする設計だったため、リアルタイム提示の効果検証は今後の課題です。カメラのキャリブレーション精度の向上や、長期的な学習を通した効果検証も進めていきたいと考えています。

IFIP ICEC 2026 にフルペーパー採録(Paris, France)
本研究をまとめた論文が、国際会議 IFIP International Conference on Entertainment Computing 2026(第 25 回)にフルペーパーとして採録されました。2026 年 10 月にパリで口頭発表を行う予定です。
設計・実装・実験・評価を一人で
ステレオカメラのキャリブレーションから YOLO による検出、三角測量、Unity / Meta Quest 3 での MR 表示、そして 11 名を対象にした比較実験の設計と統計処理まで、個人研究として一貫して担当しました。
「結果を見せる」だけでなく、「理解できる」まで設計する
数値上の短期的な改善は限定的でしたが、初心者が自分のシュートを空間的に理解できる体験は明確に評価されました。何を・どこで・どう見せるかという体験設計が、学習支援の価値を左右することを学びました。