Research 2025 Graduation Thesis

3D Shot Feedback

シュート後のボール軌道を三次元的に可視化し、初心者が結果を空間的に振り返れる MR フィードバックシステムを提案・評価しました。ステレオカメラと Meta Quest 3 という安価な構成で、「自分のシュートがどう飛んだか」をその場で立体的に確かめられる体験をつくりました。

期間
1年間(卒業研究)
役割
個人研究(設計・実装・実験・評価)
ツール
Unity / YOLO / Meta Quest 3 / Web カメラ ×2
キーワード
XR / MR / Sports Learning
MR × Basketball
Meta Quest 3 越しに見た、MR で表示されたシュート軌道

00 Movie

実験の様子

撮影のセットアップから、MR 上での三次元軌道の表示までをまとめた動画です。

01 Background

ISSUE 01

運動学習におけるフィードバック不足

バスケットボール初心者は、頭の中の運動イメージと実際の動作との間に大きな乖離があります。運動学習ではフィードバックが不足すると、誤った動作がそのまま固定化してしまう傾向があります。

ISSUE 02

ビデオ映像による学習の限界

近年はスポーツ教育で映像を使った指導が一般的になりました。しかし従来の 2D 映像では、ボールがどれくらい高く・どの方向に飛んだかといった三次元的な動きを直感的に理解するのに限界があります。

WHY 3D ? 同じ 2 本の軌道でも、正面からの映像では「奥行きのズレ」が見えません
固定視点 シュートの後ろから(従来の動画)
シュートを後ろから見た図。2 本の軌道がほとんど重なって見える
横に移動 視点を変えると、リムに届いていないことが見える
横から見た図。実際の軌道がリムの手前で落ちていることが分かる
実際のシュート 理想の軌道 ※ 説明用の模式図です(実験データではありません)
GOAL

バスケットボール初心者が、自身のシュート軌道を3次元的に把握できる環境を構築し、効率的なスキル習得を支援する。

02 Experience

MR 上に表示されたシュート軌道を、実際のゴールに重ねて見ているところ

身体フォームではなく「ボールの軌道」という結果情報に注意を向けさせる設計にしました。Gabriele Wulf が提唱した外部フォーカス理論(身体が影響を与える対象に意識を向けるほうが運動学習に有利)に基づいています。

  1. 01 結果へのフォーカス 身体フォームではなく、ボール軌道という結果情報に注意を向けます。
  2. 02 現実空間での振り返り シュートした場所で、そのまま立体的に結果を確認できます。
  3. 03 理想軌道との比較 実軌道(ピンク)と理想軌道(黄色)を重ねて、次の修正方針を掴みます。
WALK AROUND 歩き回って、自分のシュートをいろいろな角度から確かめられます
a リリース付近から
a リリース付近から
b ゴールの左から
b ゴールの左から
c ゴールの真下から
c ゴールの真下から
d ゴールの右から
d ゴールの右から

03 System

ボールの位置検出から MR 上での三次元軌跡表示までを、一連のパイプラインとして実装しました。ステレオ撮影した左右の画像から YOLO でボール中心をフレームごとに推定し、三角測量で三次元軌跡を復元。復元した軌跡を Unity へ送信し、Meta Quest 3 で現実空間と整合した位置に表示します。

  1. ゴールの横に三脚で立てた Web カメラ
    STEP 01

    ステレオ撮影

    Web カメラ ×2 で左右から同時撮影

  2. YOLO がボールを検出した枠が表示された映像
    STEP 02

    ボール検出

    YOLO でフレームごとにボール中心を推定

  3. 三角測量の模式図
    STEP 03

    3D 復元

    三角測量で三次元座標に変換

  4. Meta Quest 3 越しに見た、ゴールに重なる三次元軌道
    STEP 04

    MR 表示

    Unity → Meta Quest 3 で現実空間に重ねて表示

LEFT CAMERA
左カメラの映像。YOLO が検出したボール位置が示されている
RIGHT CAMERA
右カメラの映像。YOLO が検出したボール位置が示されている

左右のカメラで同時に撮影し、YOLO が検出したボール位置(ピンク)から視差を求めて三次元座標を復元します。

04 Evaluation

対象
バスケットボール初心者の大学生 11 名
条件
MR フィードバック群 6 名 / 動画フィードバック群 5 名
タスク
フリースロー距離からのセットシュート
手順
Pre-test 10 本 → フィードバック → Post-test 10 本 MR 群は Meta Quest 3、動画群は PC 画面の動画でフィードバック
指標
RMSE(理想軌道からのずれ)/ リリース角度 / 左右偏り / 最高到達点 / リリース高さ / 成功率 / アンケート
MR フィードバック群
Meta Quest 3 を装着してシュートを振り返る参加者
動画フィードバック群
PC 画面の動画でシュートを振り返る参加者

05 Results

QUANTITATIVE 定量評価

群間比較では、主要な定量指標に有意差は確認されませんでした。一方、MR 群内(フィードバック前後)では左右方向の偏りに有意な変化が見られました。短期介入の実験だったため、成績の改善が限定的になった可能性があります。

理想軌道と実軌道の比較(側面図・上面図)
RMSE の群間比較
左右偏りの群間比較

左:理想軌道(黄)と実軌道の比較(側面図・上面図) 右:RMSE と左右偏りの群間比較(青=動画群、橙=MR 群)

7 段階アンケートの結果。MR 群のほうが多くの項目で高い評価
SUBJECTIVE 主観評価

実験後の 7 段階アンケートでは、以下の項目で MR 群が有意に高い評価を得ました(p < 0.05)。三次元の MR フィードバックは、結果の理解と振り返り体験の向上に寄与したと考えています。

  • 「シュート結果を把握しやすかった」
  • 「ボール軌道を直感的に理解できた」
  • 「奥行きや距離感を掴みやすかった」
  • 「シュート力向上に役立つと思う」

※ 青=動画フィードバック群、橙=MR フィードバック群。評価は 1〜7 の 7 段階。

06 Conclusion

01

安価な MR フィードバックシステムの構築

シュート結果としてのボール軌道を三次元的に可視化する MR システムを構築しました。Web カメラ 2 台と Meta Quest 3 という安価な構成で、撮影から MR 表示までの一連の体験を実装しています。

02

軌道理解に対する有効性

客観指標の短期的な改善は限定的でしたが、軌道の理解・奥行きの把握・学習有用感は向上しました。結果情報に着目した体験設計が、初心者の振り返りを支える可能性が示されました。

03

今後の展望

今回はシュート後にフィードバックする設計だったため、リアルタイム提示の効果検証は今後の課題です。カメラのキャリブレーション精度の向上や、長期的な学習を通した効果検証も進めていきたいと考えています。

PUBLICATION

IFIP ICEC 2026 にフルペーパー採録(Paris, France)

本研究をまとめた論文が、国際会議 IFIP International Conference on Entertainment Computing 2026(第 25 回)にフルペーパーとして採録されました。2026 年 10 月にパリで口頭発表を行う予定です。

MY ROLE

設計・実装・実験・評価を一人で

ステレオカメラのキャリブレーションから YOLO による検出、三角測量、Unity / Meta Quest 3 での MR 表示、そして 11 名を対象にした比較実験の設計と統計処理まで、個人研究として一貫して担当しました。

LEARNED

「結果を見せる」だけでなく、「理解できる」まで設計する

数値上の短期的な改善は限定的でしたが、初心者が自分のシュートを空間的に理解できる体験は明確に評価されました。何を・どこで・どう見せるかという体験設計が、学習支援の価値を左右することを学びました。